
乳児血管腫
乳児血管腫
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乳児血管腫(にゅうじけっかんしゅ)は新生児の0.1~1%(100人~1000人に1人)にみられる未熟な血管の細胞が増えることによる良性のできもので、乳児期においてもっとも頻度の高いできものの一つです。生まれた時にはまだ病変がみられないことが多く(みられてもわずかに赤みがある程度)、生後数日~1, 2週間ほどであらわれて大きくなってくることと、ある程度大きくなった後に自然に退縮する(小さくなる)ことが特徴です。見た目が果物のイチゴのように見えることから、苺状血管腫(いちごじょうけっかんしゅ)と従来は呼ばれていましたが、必ずしもイチゴのような見た目をするわけではないため、近年は乳児血管腫と呼ぶようになってきています。
乳児血管腫の原因はまだ完全には解明されていませんが、何らかの原因で血管を作る細胞を増やす信号が増えてしまっていることで、未熟な血管の細胞が増殖して乳児血管腫を引き起こすと考えられています。また、乳児血管腫は女の子、早期産児、低出生体重児においてできる頻度が高いこともわかっています。
乳児血管腫は頭、顔から首にかけてよくみられ、見た目の形状からいくつかの型に分類されます。皮膚表面に赤く小さな凹凸があり面状に盛り上がるタイプ(局面型)、盛り上がりが強くドーム状になるタイプ(腫瘤型)、皮膚の下でしこりを作り皮膚表面からは色の変化がみられにくいタイプ(皮下型)などに分類されます。いずれのタイプも増殖期→退縮期→消失期のような経過をたどることが特徴的です。一般的には生まれたときには病変がみられないですが、生後数日から2週間以内にあらわれます。そして、生後1~3か月の間に急速に大きくなり、平均的には生後6か月(遅くとも1歳~1歳半)までは増殖期といって病変が大きくなる時期になります。その後は5歳頃までは自然に退縮する傾向(退縮期)となり、5歳以降(平均的には小学校低学年となる7歳前後)に消失していきます(消失期)。
ただし、乳児血管腫のタイプ、あらわれる部位、大きさによっては、きれいに消失せずに瘢痕というたるみのある痕や毛細血管拡張による赤みが残ってしまう場合や、視力、呼吸、食事、聴力、排泄などの機能障害をおよぼす場合があるため、早期の治療が必要となるケースもあります。
乳児血管腫は自然に消退する傾向があるため、従来は治療を行わずに経過観察する方針が主流でした。実際に盛り上がりがわずかで、増殖期を過ぎても病変が小さいままであれば最終的には自然の経過で消失することもありますが、初期の段階では増殖期に入ったあとのピークの大きさがどの程度となるかを予測することは難しいケースが多いです。そのため、経過観察を行うとしても仮に痕が残っても気にならない部位や大きさの乳児血管腫かどうか、今以上に大きくなることで瘢痕の可能性があることなどについて保護者の方が事前に認識しておくことが大切になります。
病変がある程度以上に盛り上がると、退縮後もたるんだ皮膚が瘢痕として残るケースがしばしばみられ、報告により幅があるものの頻度はおよそ25~70%と比較的多いと考えられています。そのため、近年では早い時期から積極的に治療を行うケースが増えてきています。また、仮に自然に消退するとしても小学校低学年頃までは病変が残ることで整容的な問題となる可能性がある点も、早期の治療が推奨される理由となります。よって、乳児血管腫の増大するスピードが急となる生後1~3か月頃までは治療を開始するタイミングを逃さないためにも、可能であれば1週間ごと、最低でも2週間に一度の通院が望ましいと考えられます。
とくに、乳児血管腫ができる部位により生命や機能の発達に悪影響をおよぼしうる合併症(眼の周囲にできることで視力や視野に影響が出る、唇にできることで授乳や食事が難しくなる、あごや口の中にできることで気道がふさがる、など)のリスクがある場合、顔の広範囲にみられていて整容的な問題の可能性がある場合、急速に大きくなっている場合、表面に潰瘍(かいよう)という傷がみられる場合などは、できるだけ早いタイミングでの治療が推奨されます。
乳児血管腫の治療方法にはプロプラノロール内服療法、レーザー治療、手術療法、ステロイド療法、液体窒素療法などがあります。特にプロプラノロール内服療法とレーザー治療の併用療法は早期に病変を退縮させる可能性があるとして、近年有用性が注目されています。
当院では乳児血管腫に対する治療法としてVビームⅡを用いたレーザー治療を行うことが可能です。
※遠方から受診いただく患者様がいらっしゃること、増大抑制のために早期からの治療が重要であることを踏まえ、当院ではレーザー治療の適応となる場合は”初診当日の治療”が可能です。
プロプラノロール内服療法については、治療初期に副作用がおこらないかをモニターするため、入院での導入が一般的となります。そのため、必要と考えられるケースにおいてはご相談のうえ、実施医療機関にご紹介をさせていただきます。
プロプラノロールはもともと血圧を下げたり、心拍数を減らす作用があるため、高血圧や不整脈などの治療に用いられてきましたが、後に血管腫に対しても血管の増殖を抑え、退縮を早めるはたらきがあることが分かったため、日本では2016年から保険適用で使用することができるようになりました。
プロプラノロールの内服療法が適応となるケースには、前述のように生命や機能の発達に悪影響をおよぼしうる合併症(眼の周囲にできることで視力や視野に影響が出る、唇にできることで授乳や食事が難しくなる、あごや口の中にできることで気道がふさがる、など)のリスクがある場合、顔の広範囲にみられていて整容的な問題の可能性がある場合、急速に大きくなっている場合、表面に潰瘍(かいよう)という傷がみられる場合(感染、出血、痕の原因となるため)があります。その他にも、しこりのように盛り上がるタイプの腫瘤型(局面型に比べてたるんだ痕が残りやすい)や、口周りにみられる場合(潰瘍になりやすいため)、手や足のうち服に隠れずに露出する部分、などにについても適用となる場合があります。
プロプラノロールの重大な副作用として低血圧(0.9%)、徐脈(0.5%)、低血糖(0.5%)、気管支痙攣(0.2%)などがあるため、通常は入院のうえでプロプラノロールの導入を行います。その後は治療効果をみながら外来での内服治療を継続し、約24週間後に効果判定を行い、治療を終了するか、継続するかが検討されます。
乳児血管腫の治療には当院ではVビームⅡというレーザー機器を使用しています。血管の中には赤血球という物質が流れていますが、Vビームではこの赤血球に含まれるヘモグロビンに最も反応しやすい波長の光をあてることで熱を生じさせ、熱エネルギーによって血管がダメージを受けて破壊される、塞がることで赤みが改善されます。一方で、乳児血管腫以外の正常な組織へはレーザー光は吸収されないため、病変以外へのダメージは少なく、安全性の高い治療でもあります。
このような作用によりVビームは乳児血管腫の増殖を抑える効果があるので、生後6か月~1歳頃までの増殖期にレーザー治療をすると、後に残る瘢痕を目立ちにくくできる可能性があります。
基本的にレーザー治療は乳児血管腫がまだ小さく盛り上がりが少ない時期から始めるほうが効果も高いとされています。理由としては乳幼児では皮膚が薄いためレーザーが深い部分まで到達しやすいこと、レーザーのターゲットとなる血管もまだ幼若なため破壊しやすいこと、レーザーを照射後の皮膚の治癒が早いこと、合併症がでにくいことなどが挙げられます。また、乳児期のうちにレーザー治療を行ったほうが照射する面積も小さく済むというメリットもあります。
Vビームによる痛みに関しては、レーザーが照射される直前にマイナス26℃の冷たいガスが肌に吹きつけられることで、熱による合併症がおこりにくくなるとともに、輪ゴムで弾かれる程度の痛みになるとされています。照射時間は病変の範囲にもよりますが、乳児血管腫の場合は1,2分程度で終わることがほとんどです。照射後は炎症を抑える塗り薬を塗布して終了となります。
乳児血管腫に対するVビームを用いたレーザー治療は3か月に一度の間隔で保険適用で行うことができます。具体的な治療間隔については必ず3か月に一度行う必要があるわけではなく、実際にはレーザーの治療効果や皮膚の状態に応じて決めることが多いです。具体的な治療スケジュールについては、診察時に医師までご相談ください。
レーザー照射後は照射部位のヒリヒリとした痛み、赤み、内出血、腫れがあらわれる場合があります。ただし、通常は痛み、赤み、腫れは数時間から数日程度で引いてくることが多く、内出血も数日から1~2週間で消えていきます。
照射部に強い反応がおこった場合には、潰瘍というジクジクとした傷を生じることがあります。
また、その他の合併症として水疱(水ぶくれ)、瘢痕(傷あと)、痂疲(かさぶた)などがおこる場合がありますが、頻度は1%程度と稀な合併症となります。
Vビームによる治療が保険適用となるのは、単純性血管腫(赤あざ)、いちご状血管腫(乳児血管腫)、毛細血管拡張症です。そのため、いちご状血管腫(乳児血管腫)は保険診療で治療することが可能です。具体的には下表のようにVビームを照射する面積によって料金が異なります。
ただし、千葉県では子どもの医療費助成制度が適用されますので、千葉県にお住まいの18歳以下の方の自己負担は0~300円となります。医療費助成制度の対象年齢や助成費は自治体によって異なりますので、詳しくはお住いの市区町村にご確認ください。
照射面積c㎡ | 3割負担の場合 |
---|---|
10c㎡以下 | 8,140円 |
20c㎡以下 | 9,640円 |
30c㎡以下 | 11,140円 |
40c㎡以下 | 12,640円 |
50c㎡以下 | 14,140円 |
60c㎡以下 | 15,640円 |
70c㎡以下 | 17,140円 |
80c㎡以下 | 18,640円 |
90c㎡以下 | 20,140円 |
100c㎡以下 | 21,640円 |
110c㎡以下 | 23,140円 |
120c㎡以下 | 24,640円 |
130c㎡以下 | 26,140円 |
140c㎡以下 | 27,640円 |
150c㎡以下 | 29,140円 |
160c㎡以下 | 30,640円 |
170c㎡以下 | 32,140円 |
180c㎡以下(上限) | 33,640円 |
※治療費用の他に、診察料などがかかります。
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