
フィナステリド
フィナステリド
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フィナステリドは男性ホルモンとして知られるテストステロンから活性型のジヒドロテストステロン(DHT)が合成される流れを抑制する働きをもつ有効成分です。詳しくは後述しますが、このジヒドロテストステロンが男性型脱毛症(AGA)の主な原因となっているため、フィナステリドによってジヒドロテストステロンが合成されなくなることで薄毛の改善効果が期待できます。
このように、フィナステリドは男性型脱毛症に対して効果のある有効成分であり、厚生労働省の承認を得ています。そして、日本皮膚科学会によるガイドラインでも推奨度A(行うよう強く勧める)と推奨されている治療選択肢の一つです。フィナステリドは2005年に先発品であるプロペシア錠(有効成分:フィナステリド)として発売され、その後、2015年にジェネリック医薬品(後発医薬品)としてフィナステリド錠が発売、以降複数の製薬会社よりジェネリック医薬品が発売されています。そのため、現在ではフィナステリドは先発品、後発品のいずれも選択することができます。
フィナステリドが男性型脱毛症にどのように作用するかを知るためには、まずは男性型脱毛症のメカニズムを知ることが大切です。
毛には毛周期という成長→退行→休止という一定のサイクルがあります。髪の毛は数年間(2~6年間)かけて成長を続け(成長期)、その後2~3週間かけて退化して毛が抜けるための準備に入ります(退行期)。その後、次の新しい毛が生えるまで3~4か月の休止期間(休止期)があり、再び成長期となって新しい毛が毛根から伸びてくると、もともとの毛が抜け落ちます。これを毛周期といいます。男性ホルモンの活性型であるジヒドロテストステロンは毛根に作用して、髪の毛の成長期を短縮させて休止期にある毛を増やす働きがあります。
すなわち、短縮男性型脱毛症では、
①:男性ホルモンによって髪の毛の成長期が数か月~1年ほどに短縮してしまうことで、毛が成長しきらずに細く短くなること
②:休止期にとどまる毛が増えて、新たに生えてくる髪の毛自体も減って薄毛となること
が病態の本質です。
男性ホルモンにはいくつかの種類がありますが、特にテストステロン(男性ホルモンとしての作用が弱い)から合成されてできるジヒドロテストステロン(男性ホルモンとしての作用が強い)が薄毛に強く影響しています。加えて、前頭部や頭頂部の毛はこのジヒドロテストステロンに感受性が高いことから、前頭部や頭頂部から薄毛が進行していくケースが多いです。
男性ホルモンのうち、ジヒドロテストステロンが最も男性型脱毛症に影響を与えますが、ジヒドロテストステロンがテストステロンから合成されるためには5αリダクターゼ(5α還元酵素)という酵素が必要となっています。そして、この5αリダクターゼにはⅠ型とⅡ型という2種類に分かれており、Ⅱ型のみを阻害する作用をもっているのがフィナステリドです。すなわち、フィナステリドによって5αリダクターゼⅡ型が阻害されることで、テストステロンからジヒドロテストステロンへの合成が抑えられ、結果的に男性型脱毛症の状態にある毛を正常の状態に近づける作用が期待できます。
フィナステリドは男性型脱毛症の診断がついている20歳以上の成人男性のみに適応があります。そのため、円形脱毛症などの他の脱毛症への適応はありません。また、20歳未満の男性での安全性および有効性は確立されていないため、20歳未満では使用することはできません。
フィナステリドによって男性ホルモンであるジヒドロテストステロンの合成が抑えられることで、性機能障害(性欲減退、勃起機能不全など)などの副作用がおこる可能性があります。フィナステリドと同じく5αリダクターゼを阻害する飲み薬にデュタステリドがありますが、デュタステリドでは5αリダクターゼのうちⅠ型、Ⅱ型どちらも阻害(フィナステリドはⅡ型のみ阻害)するため、ジヒドロテストステロンの合成がより抑えられて症状改善効果が高いとされる一方で、上記の副作用の頻度もわずかですが上昇することが知られています。そのため、副作用のリスクを抑えたい場合、将来的な挙児希望がある場合などは(デュタステリドではなく)フィナステリドから開始することが推奨されます。一方で、不妊治療中の方はフィナステリドやデュタステリドではなくミノキシジル外用薬から開始することが推奨されます。
フィナステリドはデュタステリドよりも症状改善効果が低いとされていますが、症状がまだ進行していない初期の男性型脱毛症においては有効であるとする報告があります。また、開始年齢が若いことも症状改善効果が高くなる要素の一つとする報告があります。
一方で、次のようなケースではフィナステリドではなく、デュタステリド(5αリダクターゼⅠ型、Ⅱ型ともに阻害)や発毛を促す作用のあるミノキシジル外用薬など、別の治療選択肢も検討されます。
5αリダクターゼⅠ型、Ⅱ型ともに阻害するデュタステリドのほうが症状改善効果が高いとされています。そのため、ある程度症状が進行しておりフィナステリドによる効果が期待しづらい場合には、デュタステリドから開始することも選択肢として考慮されます。
フィナステリドが阻害する5αリダクターゼⅡ型は前頭部と頭頂部の毛には多く分布していますが、側頭部や後頭部にはあまり分布していません。そのため、側頭部や後頭部にも症状が進行しているようなケースでは、5αリダクターゼⅠ型、Ⅱ型どちらも阻害するデュタステリドのほうが頭部全体的に効果があらわれやすいため、デュタステリドから開始することも選択肢として考慮されます。
また、前頭部の症状に関しても、デュタステリドのほうがフィナステリドよりも優れていると報告されているため、特に前頭部の薄毛を積極的に治療したい場合にはデュタステリドから開始することがあります。
フィナステリドよりもデュタステリドのほうが副作用の頻度が高まる一方で、症状改善効果も高いとされています。そのため、副作用のリスクよりも治療効果を優先する場合はデュタステリドから開始するケースもあります。
フィナステリドにより精子数が減少したとする報告もあるため、不妊治療中の方はミノキシジルなどの別の治療を選択することが推奨されます。
フィナステリド1mgを1日1回内服します。食事による影響を受けないため、基本的にはいつ内服しても問題ありません。しかし、およそ20時間前後で代謝された体内から無くなりますので、薬の効果を安定させるためにも1日のうちである程度決まった時間に内服することが推奨されます。飲み忘れたときは、気づいたときにその日の分を飲むようにして、2回分を一度に服用しないようにしてください。
フィナステリドの効果があらわれると、毛周期が正常化して太く長い髪の毛が生えてきますが、一連の流れには月単位での時間がかかるため、服用を始めてすぐに効果がでてくるわけではありません。個人差はあるものの早い方で服用3か月後から、通常は服用6か月ほどで抜け毛の減少、薄毛の改善(毛髪のボリューム改善)、生え際の前進などがみられるようになります。効果を実感していきます。効果をすぐに感じないといった理由で自己判断で服用を中止される方がいらっしゃいますが、毎日継続して飲み続けることで効果が出てくるため、最低でも3~6か月ほどはフィナステリドの服用を続けることが推奨されます。また、治療を終了するタイミングですが、残念ながら現代医学では男性型脱毛症を根本的に治すことができません。男性型脱毛症の治療で可能なことは症状の進行を遅らせたり、止めることとなりますので、基本的には症状が改善した後も服用を継続していただくことが推奨されます。基本的には内服をやめると3~6か月で効果が消失し、およそ中止してから1年ほどで服用を開始する前の状態に戻るとされています。
国内の臨床試験では男性型脱毛症の患者にフィナステリド1mgを1年間投与したところ、58.3%の症例で改善がみられたと報告されています。長期投与による臨床試験では、2年
間で68%の症例で改善(現状維持は31%)、3年間で78%の症例で改善(現状維持は20%)がみられたと報告されています。男性型脱毛症は無治療では症状が進行してしまいますので、薄毛などの症状が改善した症例だけでなく、現状維持であった症例についても効果があると判断します。そのため、結果的には症状改善+維持を合わせるとおよそ98%の症例で治療効果があるとされています。
また、フィナステリドに関するその他の研究では以下の傾向が示されています。
治療開始時の年齢が低いほうが治療効果が高い。
治療開始時の症状が軽度(薄毛がまだあまり進行していない状態)であるほうが治療効果が高い。
前頭部よりも頭頂部のほうが症状改善効果が高い傾向がある。
国内での臨床試験ではフィナステリドの服用を始めてから1年間で4%の人に副作用が認められました。主な副作用としてリピドー減退(性欲減退)が1.1%、勃起機能不全が0.7%と報告されています。実際は患者様が心配されているほど性機能に関する副作用の頻度は高くなく、比較的安全に服用することができると考えられます。
また、ごくまれに肝機能障害、抑うつ症状、発疹、めまいなどがあらわれる可能性があります。
そのため、フィナステリドを開始する前と治療中に定期的(3~6か月毎)に血液検査を行うことが推奨されます。(もしも直近3か月以内に血液検査をしている場合は、治療開始前の血液検査が不要となる場合もありますので、血液検査の結果を持参していただくようお願いいたします。)
・前立腺がんの検査を受ける人は、医師に薬を内服していることをお知らせください。前立腺がん検査で測定されるPSA値を約50%低下させます。
・内服中は献血をしないでください。一定期間、内服を止めれば献血可能です。
フィナステリドの服用をはじめてから1~3か月の時点で一時的に抜け毛が増える場合があります。これは初期脱毛といって、男性ホルモンの影響による病的な毛周期が正常に戻る過程で、成長期に移行して新たに生えてくる髪の毛が増えることによって休止期にとどまっていた髪の毛が押し出されることでおこる現象です。そのため、フィナステリドの効果が出ていることを反映しているとも言えます。しかし、初期脱毛がみられないからといってフィナステリドの効果があらわれないというわけではないため、最低6か月間は服用を続けることが大切です。
準備中です。
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