
水いぼ
水いぼ
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水いぼは医学用語では伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)といい、伝染性軟属腫ウイルスが皮膚に感染することで発症するウイルス感染症のひとつです。外観が水っぽい光沢をおびて見えることにより、水いぼと呼ばれます。発疹がある部位を触ったり掻いたりすることで体の他の部位に広がったり、兄弟姉妹にうつったりしますので注意が必要です。また、タオルやビート板、浮き輪などを介して間接的にウイルスが皮膚に付着することでも感染することがあるため、タオルの共用を控えたりプールやスイミングスクールでの感染にも気を付ける必要があります。
なお、稀なケースですが成人で水いぼを発症する場合には、性感染症や免疫不全が背景にみられることもあります。成人の方で水いぼが広い範囲に数多くみられたり、水いぼのサイズが大きい場合はHIV感染の可能性もあります。
水いぼは伝染性軟属腫ウイルスというウイルスが皮膚に感染することで発症します。一般的には7歳以下の子どもに多く見られますが、その理由としては子どもの皮膚は薄く、バリア機能もまだ未熟なこと、また、ウイルスに対する免疫もないことが挙げられます。皮膚の乾燥や掻きこわしのような細かい傷があると、ウイルスが皮膚に侵入して感染し、皮膚の細胞の中で増殖することで水いぼのぽつぽつができてしまいます。そのため、皮膚を良い状態に保つことは感染予防のためにはとても大切になります。特に、アトピー性皮膚炎のお子さまでは、皮膚のバリア機能が低下しているため、水いぼにかかりやすいことに加えて、いったん水いぼに感染すると湿疹を掻くのと一緒に水いぼの発疹も掻いてしまい、全身に水いぼが広がってしまうこともあります。
水いぼの発疹は1~5mmほどの大きさで、表面に水っぽい光沢がある白色、肌色、ピンク色などのぽつぽつであり、よく見るとぽつぽつの頂点が少しへこんでいることも特徴的で、す。基本的には体のどの部位にも発症しますが、特に胸やお腹などの体幹、脇の下や股の辺りなどの皮膚が薄い部位や擦れる部位によくみられます。水いぼという俗称ですが、ぽつぽつの中身は液体ではなく、白っぽい垢のような塊からなります。これはウイルスを含んだ皮膚の組織が成分となっていますので、触ったり引っ掻いたりすることで、手にウイルスが付着して他の体の部位や他人に接触感染をおこしてしまいます。
水いぼは通常は痒みや痛みなどはありませんが、しばしば水いぼの周りに炎症の変化がおこり、水いぼの周囲に赤くて痒い湿疹がみられることがあります。これは水いぼに対する免疫が働き始めて、水いぼが治る機転のサインとされていて、軟属腫反応(なんぞくしゅはんのう)といいます。治るきっかけとなりうる一方で、痒みを伴いますので特にアトピー性皮膚炎のお子さまなどでは皮膚炎が悪化したり、掻きこわすことでとびひを合併してしまうこともあります。そのため、軟属腫反応がみられる場合はステロイド外用薬や保湿剤による治療が必要となります。その他には、水いぼ自体が赤く腫れたり、黄色い膿が溜まって痛みを伴うようになることもあります。これも水いぼに対する免疫が働いていることを反映した炎症の反応です。このような反応がみられた部分では、その後にすぐに水いぼが治ることが期待されます。そして、虫刺されやおできなどと似ている場合もありますので、周りに水いぼの発疹がないかを確認することも大切です。
水いぼはウイルス感染症のため、ウイルスを排除するための免疫を獲得すれば自然に治ってしまいます。そして一度かかると再発しなくなることもあります。しかし、水いぼの原因となる伝染性軟属腫ウイルスは、皮膚の細胞に感染してからぽつぽつの発疹ができるまでの期間(潜伏期間といいます)が2週間~2か月ほどと長いため、今ある水いぼを治療しても潜伏感染していたウイルスによって後からぽつぽつがでてくることもあります。そのため、通常は複数回の治療が必要となることが多いです。
自然治癒までにかかる期間には個人差が大きく、早ければ3,4か月から6か月、平均的には1年ほどとされていますので、特に痛みに敏感なお子さまの場合は積極的な治療はせずに自然治癒するまで経過観察をすることも一つの選択肢となります。一方で自然治癒するまでにかかる期間は長い場合は3~5年のこともあります。そのため、経過観察のデメリットとしてはいつ免疫が働いて水いぼが治るか分からない中で、水いぼがお子さまや兄弟姉妹の間で広がってしまうリスクが挙げられます。現状では自然治癒を待つか、積極的に治療を行うかについては議論が分かれるところであり、水いぼの数やお子さまの年齢、痛みへの耐性、ご家族の希望、医師の意見などから総合的に決めていることが多いです。
積極的な治療には水いぼを除去する専用のピンセットを使い、1つずつ病変を除去していく方法があります。これは水いぼを除去できたかどうかを眼で見て確認しながら処置を行えるため、確実性の高い治療ですが、痛みを伴い、お子さまにとっては精神的な恐怖心が強くなりやすい治療法でもあります。(初回はなんとか行えても、2回目以降は怖さを覚えてしまい、簡単には行えなくなってしまうケースもしばしばあります。)現在ではピンセットでの除去の際の痛みを緩和させるために、貼り薬タイプの麻酔薬(ペンレステープという商品名です)を使用することが可能となっています。痛みの緩和効果には個人差がありますが、日本で行われた試験では痛みの緩和効果の有効率は83.6%であったと報告されています。使用方法は処置の1時間ほど前に患部に貼り、除去する直前に剥がします。保険上1回の除去で2枚まで使用することができますので、水いぼの数が多い場合などにしばしば用いられます。
液体窒素という空気中の窒素をマイナス196度の液体にしたものを用いた治療です。液体窒素を病変に当てると、病変の細胞が凍結して壊死します。壊死した細胞は時間とともにかさぶたとなって剥がれて取れ、下から新しい皮膚が再生してきます。1回の治療で3回ほど凍結と解凍を繰り返すことで病変の細胞が壊れやすくなります。処置後は凍傷ややけどと同じような反応となりますので、1~2日程度は痛みが続く場合がありますが、水ぶくれや血豆になっていなければそのままの状態で日常生活をしても大丈夫です。一方で、凍結療法による反応が強く起こると水ぶくれや血豆になることもあります。しかし、それだけ水いぼの病変に強いダメージを与えている証拠でもありますので、治療効果も高いことが期待できます。水ぶくれや血豆となった場合は症状に応じて適切に対応いたします。
施術頻度は1~2週間おきに行うことが多いです。
3A-M-BF CREAMという抗菌作用のある銀イオンと保湿・抗炎症作用もあるとされるサクランが配合されたクリームを用いた治療です。人体にも極めて安全であることが確認されています。使用方法は1日2回、朝と入浴後に水いぼとその周りに外用します。効果が出てくるまでの期間は症状の程度や個人差にもよりますが、早いと2,3週間、平均的には2か月程度で水いぼが赤く変化してきます。赤くなる変化は治療効果が出てきていることを反映していて、そこから1か月程度で水いぼが治っていくことが多いです。副作用としてはかぶれがあらわれることがあります。銀イオン配合クリームによる治療はピンセットでの除去と比べると時間がかかり、確実な治療効果が期待できる治療法ではありませんが、水いぼの数がピンセットで除去するには多すぎる場合や、除去への恐怖が強い場合などには選択肢となります。銀イオン配合クリームによる治療は保険適応外となります。
水いぼを発症していても通園や通学は禁止されていませんので、お休みをする必要はありません。また、日本皮膚科学会や日本小児科学会などからの統一見解では、プールなどの肌の触れ合う場では感染予防のためにタオルや水着、ビート板、浮き輪などの共用は控えるなどの配慮が必要ですが、プール自体は禁止されていません。なお、水いぼはプールの水を介しては感染することはありません。そして、スイミングスクールなどへ通うお子さまは、消毒のための塩素によって皮膚表面が脱脂されて乾燥し、水いぼに感染しやすくなりますので、プール後の保湿が大切です。
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