
男性型脱毛症
男性型脱毛症
男性型脱毛症はAGA(Androgenetic Alopecia)という病名でも広く知られている成人以降の男性にみられる脱毛症です。日本人男性の男性型脱毛症の発症率は約30%と報告されており、およそ3人に1人が発症する計算となります。また、発症頻度は20代で10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%と年齢とともに高くなります。すなわち、男性型脱毛症は若い方でも20代から発症することがあり、進行性の疾患であるため、無治療のまま放置することで脱毛や薄毛が進行してしまいます。そのため、男性型脱毛症が疑わしい段階で医療機関を受診し、適切な診断のもと早期に治療を開始することが非常に大切となります。
男性型脱毛症の原因には毛周期という髪の毛が一定の周期で成長したり、抜けたりするサイクルと、アンドロゲンという男性ホルモンの2つの要素が関係しています。通常の毛周期では、髪の毛は数年間(2~6年間)かけて成長を続け(成長期)、その後2~3週間かけて退化して毛が抜けるための準備に入ります(退行期)。その後、次の新しい毛が生えるまで3~4か月の休止期間(休止期)があり、再び成長期となって新しい毛が毛根から伸びてくると、もともとの毛が抜け落ちます。
男性ホルモンには骨や筋肉の発達を促したり、ひげや胸毛を濃くする働きがある一方で、頭の毛(特に前頭部や頭頂部)に対しては毛周期のうち成長期を抑制する作用があります。すると徐々に成長期が短くなってしまい、本来であれば2~6年ほどであった成長期が男性ホルモンの作用により数か月~1年ほどと短縮し、代わりに休止期にとどまる毛が増えていきます。十分な期間の成長期があることで髪の毛が太く長く成長しますが、成長期が短くなることで、髪の毛自体も細く短くなり、休止期にとどまる毛根が増えるため、薄毛が目立つ状態となってしまいます。このような男性型脱毛症により髪の毛が細く短くなってしまうことを軟毛化といいます。
また、男性型脱毛症の原因として遺伝も発症のしやすさに関わっていることがわかっています。実際には一つだけの遺伝子ではなく、父系、母系からの複数の遺伝子が関与しており、詳しいメカニズムは完全には解明されていませんが、血縁者に薄毛の方がいる場合は男性型脱毛症を発症しやすい可能性があるといえます。
男性型脱毛症では男性ホルモンの影響により、髪の毛の成長期が短縮して軟毛化(毛が細く短くなる)することで薄毛の進行、生え際の後退、全体のボリュームの減少がみられますが、特に症状が出やすい部位が決まっています。前頭部(おでこの生え際)と頭頂部(つむじの辺り)の毛根が男性ホルモンの影響を受けやすいため、基本的には前頭部あるいは頭頂部から薄毛が進行します。そして、人によって症状が進行するパターンは異なり、前頭部から薄毛が進行して生え際が後退するタイプ、頭頂部のつむじから薄毛が進行するタイプ、前頭部と頭頂部の薄毛が同時に進行するタイプに分類されます。これに症状の進行度合いを加えた分類がハミルトン・ノーウッド分類とよばれるもので、そこに日本人で比較的みられやすい頭頂部の症状を分類した高島分類のⅡvertexを加えた分類が広く使用されています。いずれにせよ男性型脱毛症は症状が進行するにともない、外見上の悩みの原因となるため、発症早期に治療を始めることが大切となります。
男性型脱毛症の診断は前頭部と頭頂部の髪の毛が軟毛化(毛が細く短くなる)を確認することで診断をつけられる場合が多いです。しかし、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を使用することで、軟毛化していることをより正確に評価することができ、また男性型脱毛症によくみられる所見を確認することで、他の疾患との鑑別にも役立つ場合があります。そして、肉眼的には軟毛化しているか判断がしづらい発症早期の男性型脱毛症の診断にも特に有用とされています。実際、円形脱毛症であっても男性型脱毛症と似たような脱毛のパターンとなるケースも稀にあるため、ダーモスコピーなどを用いてしっかりと評価することが重要です。
また、男性型脱毛症は複数の遺伝子も発症の原因として報告されているため、男性型脱毛症の方が家系にいるかどうかも診断のために大切な情報となります。
男性型脱毛症の治療については、日本皮膚科学会よりエビデンスに基づいたガイドラインが公表されており、当院でもガイドラインに沿った治療を行っています。
ガイドライン上、推奨度がA(行うよう強く勧める)の治療選択肢には、フィナステリド、デュタステリドという飲み薬、ミノキシジルという塗り薬があります。これら飲み薬と塗り薬を併用することも有用とされています。
フィナステリドとデュタステリドはいずれも毛根において男性ホルモンが毛の成長期を抑制してしまう流れをブロックすることで、薄毛の進行を抑える作用があります。フィナステリドとデュタステリドの違いについては、男性ホルモンが毛の成長期を抑制する流れのどこをブロックするか、すなわち、ブロックする範囲が異なります。当然、毛の成長期を抑制する流れをしっかり止めることができれば効果が高くなります。このブロックする範囲はデュタステリドのほうがフィナステリドよりも優れており、実際、臨床試験においてもデュタステリドのほうがフィナステリドよりも治療効果が優れていたと報告されています。(特に前頭部の薄毛において効果の差が大きかったとされています)ただし、注意しなければならない点として、フィナステリドもデュタステリドも男性ホルモンの作用を抑制する働きがあるため、性機能障害(性欲減退、勃起不全、射精障害など)があらわれる可能性があり、デュタステリドのほうが頻度が高いと報告されています。
そのため、両者のメリット、デメリットを比較したうえで選択するとよいでしょう。
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