
水虫
水虫
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水虫とは医学的には白癬(はくせん)とよばれ、白癬菌(はくせんきん)というカビ(真菌)が皮膚や爪に感染することで発症します。足に白癬菌が感染したものを俗に水虫といい、爪に感染すれば爪白癬、股に感染すれば股部白癬(俗にインキンタムシ)といいます。
水虫が増え始める5月頃には5人に1人は足白癬があり、10人に1人は爪白癬があるという報告もあることから、水虫はとてもありふれた疾患であるといえます。
白癬菌はケラチンという皮膚のたんぱく質を栄養源にしているため、ケラチンが豊富な角層(皮膚の最も表層)に感染します。白癬菌を含めてカビは一般的に温かく湿った環境を好むため、靴や靴下で覆われる足で感染がおこりやすくなります。そして、水虫の人の足からはがれ落ちる皮膚(角質)には白癬菌がついているため、それらが付着している浴室の足ふきマット、じゅうたん、スリッパなどに接触することで他の人に感染していきます。(水虫の人がいる家庭、公衆浴場、スポーツジム、プールの足ふきマットには白癬菌が存在している可能性が高いため注意が必要です)
ただし、白癬菌が皮膚についてもすぐに感染するわけではなく、その日のうちに足を洗って清潔にし、乾燥した状態にすることで通常は感染することはほとんどありません。一方で、白癬菌が足についたまま湿度が高い状態が長時間続くと感染する可能性がでてきますので注意しましょう。
また、足の皮膚に感染した白癬菌が増殖することで爪(爪自体にも白癬の栄養源であるケラチンは豊富に含まれています)にも侵入すると、爪白癬の症状があらわれるようになります。そのため、通常は足白癬の後に爪白癬を発症します。
そして、白癬菌は足ふきマットなどの環境中からしか感染しないというわけではなく、人と人との接触や動物(主にネコ)との接触を介して頭、顔、体などに感染するケースもあります。
水虫といえば痒いイメージがある方が多いと思われますが、実際に痒みを感じるケースは全体の10%程度と多くはありません。水虫による発疹も皮が剥ける、水ぶくれができる、ガサガサと皮膚が厚くなる、など様々な症状がみられます。
水虫(足白癬)は発疹の特徴や部位によって次の3つのタイプに分かれます。
足の指の間が白くふやけてじくじくしたり、皮が剥けるタイプです。白くふやけた皮膚が深くめくれることで、びらんという赤くジクジクした傷になり、痛みを感じる場合があります。趾間型は3つのタイプの中で最もよくみられます。
足裏の土踏まずや足のふちに小さい水ぶくれが多くみられるタイプで、水ぶくれが増えるタイミングで強い痒みを感じることが多いです。次第に水ぶくれは乾いて破れながら皮が剥けていきます。このタイプは同じく手足に細かい水ぶくれと痒みを伴う異汗性湿疹(いかんせいしっしん)という疾患と似ていて紛らわしいケースがあるため、適切に白癬の検査を行い、鑑別することが大切になります。
足裏の広範囲の皮膚が分厚く硬くなり、冬季にはひび割れを伴うこともあります。通常は痒みを感じることはなく、乾燥による症状としばしば間違われることがあります。他の2つのタイプに比べてまれなタイプです。
爪白癬の症状としてよくみられるのは爪が白白から黄色に濁り、分厚くなることです。そして、白癬菌が感染した部分の爪が脆弱になり、ボロボロと崩れやすくなることも特徴です。爪白癬にも白癬菌が爪のどこから感染してくるかによって以下の4つのタイプに分類されます。爪白癬は基本的には自覚症状がなく、見た目の問題が大きいですが、症状が進行して爪が分厚くなると靴に当たって痛みがでる、引っかかる、歩きにくくなるなどのトラブルがおこる場合があります。また、自分で爪切りができなくなることもあります。
爪白癬全体のおよそ90%を占める、最もよくみられるタイプです。爪の先端や側縁から白癬菌が爪に侵入して発症します。爪の内部や裏側に白癬菌が感染するため、爪の混濁や厚くなるといった症状が爪の先端や側縁から少しずつ根元側に向かって進行し、爪自体も徐々に脆弱になり簡単に崩れるようになります。
爪白癬の4つのタイプの中で、2番目に多いタイプです。白癬菌が爪の表面の傷から侵入して発症するため、爪の表面のみが白く濁りザラザラとします。爪の内部や裏側には白癬菌が感染していないため異常がないことが特徴です。爪白癬は基本的には塗り薬による治療が効きにくい、あるいは効いたとしても治療に長い時間がかかるため、飲み薬による治療が推奨されますが、このタイプでは白癬菌が爪の表層だけにしか感染していないため、塗り薬のみで治療できることが多いです。
白癬菌が爪の根元側から感染し、症状が爪の先端に向かって広がっていくタイプです。爪の表面はきれいに保たれていることが多いですが、爪の内部、裏側が白色から黄色に濁っています。
他の3つのタイプが進行して爪全体に病変が広がることで最終的にみられる状態です。爪全体が白癬菌に感染し、白色から黄色に濁り、分厚くなります。また、爪自体が脆弱になり崩れやすいため、爪表面の粗造になりガサガサとしてきます。
水虫の検査方法にはいくつか種類がありますが、基本的には顕微鏡検査(真菌鏡検:しんきんきょうけん)という検査を行い、確定診断をします。
白癬菌は皮膚の最も表層にある角層という部分に感染しています。そのため白癬菌が感染していそうな部分からピンセット、ハサミ、メスなどを用いて角層だけを採取します。採取した角層を検査液に浸して顕微鏡で観察することで白癬菌の有無を判定することができます。角層の採取から結果判定に要する時間は数分のため、受診当日に行えます。また角層の採取も基本的には痛みはないためお子さまでも問題なく検査を受けることができます。爪白癬についても同様で、白癬菌に感染していそうな爪を一部削り取り、顕微鏡で観察します。
大切なことは水虫も爪白癬も肉眼的に目で見ただけでは診断はできないということです。というのも、水虫だと思って皮膚科を受診した患者様の3人に1人は別の皮膚疾患であったり、逆に、水虫ではないと思って受診した患者様が水虫だったという報告があり、実際に診療していても同じようなケースは多く経験します。そのため、水虫かどうかをきちんと検査してくれる医療機関を受診することがポイントです。
検査に関してもう一つ大事なポイントがあります。現在ではドラッグストアなどで手軽に水虫の薬を購入することができますので、水虫と自己判断してしばらく塗ってから検査を希望されるケースがあります。しかし、仮に水虫にかかっていたとしても、市販の水虫薬により患部の白癬菌に効いてしまっていると、顕微鏡検査で白癬菌が見つからなくなってしまう場合があります。そのため、水虫の検査を希望される方は最低でも2週間ほどは市販の水虫薬を中止した状態で受診をするとよいでしょう。また、市販薬でも医療機関の処方薬でも、水虫の治療薬には刺激性のある成分が含まれています。そのため、市販の水虫薬を使用してかぶれてしまい、それを水虫の悪化と考えて受診されるケースもしばしばみられますので、使用中にかぶれがみられて悪化する場合には、いったん使用を中止して早めに医療機関を受診するようにしてください。
白癬菌に対する薬は大きく分けて塗り薬と飲み薬を使うことができます。ただし、皮膚に白癬菌が感染する水虫(足白癬)と、爪に白癬菌が感染する爪白癬では、基本的には使用する薬が異なります。
水虫は多くのケースでは塗り薬のみで治りますが、爪白癬は塗り薬のみで完全に治癒させることが難しいケースが比較的多いため、基本的には塗り薬よりも治療効果の高い飲み薬による治療が推奨されます。ただし、飲み薬による治療も爪白癬を完全に治癒できるわけではなく、最も完全治癒率の高い飲み薬でも約60%(10人中6人は完全に病変が消失するも、残り4人はある程度の治癒にとどまった状態)ですので、爪白癬自体が難治性の疾患であるといえます。通常爪白癬は水虫(足白癬)が進行することで発症するため、水虫のうちに早めに医療機関を受診して治すことが大切です。
爪白癬の基本は飲み薬による治療ですが、合併症や飲み合わせの問題により飲み薬が使用できない場合、飲み薬の副作用が心配で内服を希望しない場合、白癬菌が爪の表面だけに感染する表在性白色爪真菌症の場合などでは塗り薬による治療を行います。
水虫(足白癬)は基本的には塗り薬により治療します。
水虫に使用される塗り薬は色々な種類がありますが、よく使用されるものは通常は1日1回の外用です。そのため入浴時に足を洗って清潔にしてから塗布するのが推奨されます。入浴後の角層が軟らかくなっている時のほうが、塗り薬の有効成分が浸透しやすいためです。また、塗り薬の治療において大切なポイントが3つあります。
白癬菌は水ぶくれ、赤み、皮むけ、ガサガサなどの症状がみられる部分だけではなく、その周囲にも症状をひきおこしていないだけで感染していることが多いです。よって、塗り薬を塗るときは患部だけでなく足裏全体(足裏、足の側縁、指の間)に、かつ両方の足に塗ることが大切です。患部だけに塗っていると、患部は治っても時間が経つと別の部位に症状があらわれる場合がありますので、塗る範囲に注意しましょう。
水虫の治療で大切なのは塗り薬を塗る期間です。塗り薬による治療を始めると、通常は1~2週間ほどで患部は治ることが多いです。しかし、この時点で治療を終了してしまうと高い確率で再発してしまいます。理由は皮膚のターンオーバー(皮膚の入れ替わり)にあります。塗り薬を塗ることで角層に感染している白癬菌の増殖が止まり、皮膚のターンオーバーにより少しずつ表層の角層から順番に剥がれ落ちていきます。足裏の場合は全ての角層がターンオーバーで入れ替わるためには通常1~2か月ほどかかりますので、最も深い層に感染した白癬菌が排除されるまでは塗り薬を続けたほうがよいとされています。そのため、症状が治ってからも、追加で1~2か月は塗り薬を毎日使うようにしましょう。
水虫の治療に使用される塗り薬は刺激性がある製品が多く、塗り薬によってかぶれる場合がしばしばあります。よって、塗り薬による治療中に患部がジクジクして汁が出てくる、赤く腫れる、痒みがでてくるなどの症状があらわれた場合は使用を中止して医師にご相談ください。なお、このような刺激性があるため、水虫と診断が確定しても患部の炎症が強く、かぶれるリスクが高い場合は先に皮膚炎の治療を行ってから、水虫の治療にうつる場合もあります。
爪白癬の治療薬には飲み薬が3種類、塗り薬が2種類あります。
基本的には飲み薬であれば内服期間は3~6か月、塗り薬は外用期間は1年~1年半ほどとされています。
塗り薬は飲み薬に比べて完全治癒率(完全に爪白癬の病変がなくなる割合)が低いとされているため、飲み合わせや既往疾患の問題から飲み薬による治療ができない方、あるいは飲み薬による治療を希望しない方に通常は使用されます。日本皮膚科学会による治療ガイドラインによれば、飲み薬のほうが塗り薬よりも推奨度が高いため、上記のようなケースでなければ基本的には飲み薬による治療が推奨されます。
爪白癬の治療にはネイリン、ラミシール、イトリゾールという商品名の3種類の飲み薬を使用することができます。
それぞれ内服期間や服用方法などが異なりますが、いずれの飲み薬も肝臓や腎臓などの機能異常がおこる可能性があるため、1~2か月毎の定期的な血液検査が推奨されます。
飲み合わせに注意をしなければならない飲み薬もありますので、現在内服中のお薬の確認も含め、診察時にいずれの飲み薬がよいかご相談させていただきます。ただし、いずれの飲み薬も基本的には副作用の頻度は高くはなく、定期的な検査を行いながらであれば十分安全に使用できると考えられます。
飲み薬による治療で爪白癬が治ってくる時は、爪の根元側から正常な爪が生えてきて、少しずつ白癬菌に感染した先端側の爪が押し出されるように病変が小さくなっていきます。
・水虫の治療中は足の指の間がふやけることで、塗り薬によってかぶれてしまったり、治療が上手くいかない場合もあるため、5本指靴下の着用をお勧めしています。
・プールや温泉などの公共施設では多くの人が素足で歩いたり、マットやスリッパを共有している場合が多いため、床、マット、スリッパなどには水虫にかかっている人の足から剥がれ落ちた白癬菌を含む角質がついています。それらを踏んで足に付着したままにすると半日程度で感染してしまうとされますので、利用後は早めに石鹸などを用いて足を洗うようにしましょう。
・家族に水虫にかかった人がいる場合は、家庭内での感染を防ぐためにもマットやスリッパの洗濯や、床の掃除などをこまめに掃除することが大切です。
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