
手荒れ(手湿疹)
手荒れ(手湿疹)
目次
手荒れ、手湿疹とは手にできる湿疹の総称です。水仕事の機会が多かったり、手をよく使う方にみられる頻度の高い皮膚疾患です。主婦、飲食業、美容師、飲食業、調理師、介護職、医療従事者など様々な職種の方にみられ、仕事が原因の場合は症状が長引きやすいケースが多いです。しかし、なるべく原因を除去したり、適切な外用薬を使用したりすることで症状の改善も期待できます。あるいはご自身で手荒れ、手湿疹だと思っていたものが別の皮膚疾患であるケースもあります。当院でも適切な診断のもとで、手荒れ、手湿疹の治療においては様々な工夫を行っていますので、手荒れでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
ここでは手湿疹の原因、症状、治療方法などを詳しく解説します。
手荒れ、手湿疹にはいろいろな原因がありますが、もっとも多い原因は刺激です。水に触れる、物を触ったり掴んだりするといった行動は、皮膚表面の保湿成分である皮脂を奪い、皮膚のバリア機能を弱める刺激となります。皮膚のバリア機能や保湿成分が損なわれると、手は乾燥するようになり、そこへ同じような刺激が繰り返されることで手荒れ、湿疹を引き起こしてしまいます。
その他にも、洗剤やパーマ液、消毒液、薬品などの化学物質も皮膚にとっては刺激となり、炎症を伴ったかぶれを引き起こします。特に、洗剤やパーマ液、ゴム製品、金属などは手荒れ、手湿疹が治っていない状態で触れたり、取り扱いを続けるとアレルギー性接触皮膚炎というアレルギーの原因となってしまいます。よって、治療を続けても治りにくいケースではパッチテストなどのアレルギー検査を行う場合もあります。
また、真菌(しんきん)というカビの一種が感染することでひきおこされる手白癬(てはくせん)やカンジダ性指間びらん症など、手荒れや手湿疹に見た目は似ていても実は別の皮膚疾患というケースもしばしばみられます。当院では症状や経過から真菌感染を疑った場合でも光学顕微鏡を用いて真菌がいないかどうかを直接みて検査することも可能です。
最初は指先や手のひら、手の甲にカサカサとした乾燥や白く細かい皮がむけるようなといった症状から始まることが多いです。この白く細かい皮むけは鱗屑(りんせつ)や落屑(らくせつ)といい、乾燥や炎症によって皮膚の最も表層にある角層という部分が剥がれ落ちていることを意味しています。症状が進行するとやがてガサガサとした赤い発疹や点々とした小さな水ぶくれがみられるようになり、痒みを感じます。この小さな水ぶくれは水疱(すいほう)といい、手のひらや指の側面によくみられ、痒みが強いことが特徴です。この水疱は異汗性湿疹という手足にみられる皮膚疾患でもよくみられます。
手荒れ、手湿疹の赤い発疹や水疱の症状が良くならずに慢性化してくると、次第に皮膚が硬く分厚くなってきて、それに伴って亀裂もみられるようになります。
最も重症化した場合は、皮膚が赤く腫れてジクジクしてきたり、ジクジクした部分に細菌が二次的に感染を起こして痛みや臭いなどもみられる場合があります。このような症状では速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
上記は手荒れ、手湿疹でよくみられる経過、症状の流れを示したものですが、症状によって次のように細かく分類することもできます。
手のひらの角質が厚くなり、細かく剥がれ落ちていく状態です。角質が厚くなるとひび割れがみられることもあります。中高年の男性に多くみられる症状です。
指先や指紋がある部分が乾燥してがさがさになる状態です。特に利き腕の親指、人差し指、中指でよくみられます。症状が進行すると指紋がみられなくなったり、亀裂となることもあります。水仕事の多い方、美容師、キーボードなど指先を頻繁に扱う職種の方によくみられます。
手の甲にコイン大くらいの円形の湿疹ができて、強い痒みを伴う状態です。化学物質などによるアレルギー性接触皮膚炎や、アトピー性皮膚炎の患者様でみられます。
手のひらや指の側面に点々とした小さな水ぶくれがたくさんでき、強い痒みも伴う状態です。進行すると水ぶくれは乾燥して皮むけし、赤い発疹が広がるようになります。はっきりとした原因は明らかでないことが多いですが、夏に症状が悪化する傾向にあります。
手のひらや指全体が乾燥して、亀裂が起こる状態です。
皮膚のバリア機能が低下することで起こるとも言われ、乾燥が強い冬に悪化する傾向があります。
手荒れ、手湿疹の主な治療方法は外用薬ですが、同じくらい大切なこととして原因となっている刺激(水仕事、洗剤、化学物質、手を使った作業など)が分かっていれば、なるべくそれらの刺激を減らすことです。仕事上どうしても避けることが難しい場合は、直接手が刺激に触れないような工夫をするだけでも症状が悪化しにくくなるケースが多いです。
外用薬では主に保湿剤とステロイド外用薬を使用します。また、痒みに対しては補助的に抗ヒスタミン薬の内服を行う場合もあります。亀裂がある場合はステロイドのテープ剤や亜鉛華軟膏という軟膏を使用します。
保湿剤は手荒れ、手湿疹の治療で最も大切なお薬です。手荒れ、手湿疹はほとんどの場合乾燥から症状が始まります。乾燥が進行すると炎症をおこして赤みや痒み、ガサガサ、亀裂などの色々な症状を招いてしまいますので、乾燥の段階から保湿はしっかり行うようにしましょう。回数の目安は最低でも1日2~3回として、水仕事の後やかさつきが気になった時などは、その都度こまめに外用するようにしましょう。
医療機関で処方される保湿剤としてはプロペトなどの白色ワセリン、ヒルドイドソフト軟膏などのヘパリン類似物質含有製剤、ケラチナミンコーワクリームなどの尿素製剤などがあります。
白色ワセリンは皮膚の表面を油脂で覆うことで水分が蒸散してしまうことを防ぎ、それによって少しずつ角層に水分が貯まるといった間接的な保湿効果があります。よって、ワセリンの成分自体に直接的な保湿効果はありませんが、皮膚をしっかりと保護する作用があるため細かい傷ができやすい場合の予防などにも用いることができます。
ヒルドイドなどの商品名でよく知られていますが、ヒルドイドの有効成分がヘパリン類似物質にあたります。ヘパリン類似物質は肝臓で作られるヘパリンという物質に似た構造を持った物質で、水を引き寄せて保持しやすい構造(親水基といいます)を多く持っているため吸水性や保水性に優れているという特徴があります。そのため、軟膏自体に直接的な保湿効果があります。ヘパリン類似物質は保湿作用以外にも抗炎症作用、血行促進作用、線維芽細胞の増殖抑制作用なども持っているため、しもやけやケロイドなどに使用する場合もあります。患者様によっては血行促進作用により外用後に一時的に赤みが増したり、ヒリヒリとした刺激感、痒みを感じる場合があったり、稀にかぶれ(接触皮膚炎)をおこすこともあります。そのため、ヘパリン類似物質を含む外用薬を使用していて皮膚の痒み、かぶれなどがあらわれた場合は、外用を中止して医師または薬剤師に相談をしてください。また、皮膚がジクジクしてただれているところや傷口、眼などの粘膜に塗ることは避けるようにしてください。医療機関ではへパリン類似物質はヒルドイドソフト軟膏やヘパリン類似物質クリームなどの医薬品名で処方されており、外用薬の剤型にもソフト軟膏、クリーム、ローション、フォーム(泡タイプ)など複数の種類があり、保湿効果や塗りやすさ、使用感などそれぞれ違いがあります。
尿素は天然保湿因子であり、水を引き寄せて保持しやすい親水基という構造をもっていますので、吸水性や保水性に優れています。よって尿素製剤を使用することで皮膚の最も表層にある角層が水分を保持できるようになり、角層水分量が増えることで乾燥症状を改善させる働きがあります。よって尿素製剤もヘパリン類似物質と同様に、軟膏自体に直接的な保湿効果があります。一方でヘパリン類似物質にはない特徴として、尿素には角質融解作用があります。よって、角質が分厚くガサガサになっているような踵や肘、膝、手などの乾燥には良い適応となります。一方で、敏感肌の方が使う場合や亀裂、ひび割れ、炎症がある部位、皮膚が薄い部分に使う場合には刺激感を感じることがありますので注意が必要です。また、尿素製剤には尿素の配合濃度によって10%や20%などの種類がありますが、濃度の高い20%製剤のほうが角質融解作用も大きいため、使用する際は塗る部位などに注意するようにしましょう。
医療機関では尿素製剤はウレパールクリーム10%、ウレパールローション10%、ケラチナミンコーワクリーム20%、パスタロンクリーム10% / 20%、パスタロンソフト軟膏10% / 20%、パスタロンローション10%などの医薬品名で処方されています。
市販の保湿剤を使用する場合には、成分自体に保湿効果があるヘパリン類似物質や尿素、セラミド、ヒアルロン酸などが配合されている商品は、比較的保湿力が高いためおすすめされます。セラミドやヒアルロン酸は医薬品として医療機関で処方される保湿剤には含まれていない成分ですが、セラミドは本来皮膚の角層にある細胞の間を埋めている脂質(細胞間脂質といいます)で、皮膚のバリア機能を整えたり水分を保持する効果があり、保湿においては重要な成分です。
乾燥以外にもガサガサ赤くて痒い発疹や、水疱のような痒いぽつぽつといった症状がみられる場合は炎症も伴っています。そのような場合には、保湿剤のみの治療ではなかなか症状は改善しませんので、ステロイドと呼ばれる外用薬を使用します。ステロイド外用薬は様々な皮膚疾患に使用されている抗炎症作用のあるお薬で、適切に使うことで比較的早く炎症の症状を改善させることができます。特に手のひらの皮膚は角層が厚い部分ですので、ステロイド外用薬も作用が強いランクのものを使用し、外用回数も1日3~4回と多めに塗っていただくことが多いです。詳しい外用方法などについては当院受診時にも丁寧にご説明させていただきます。
乾燥の症状をよくする保湿剤、皮膚の炎症をよくするステロイド外用薬などの抗炎症薬、亀裂やひび割れに用いる亜鉛華軟膏など、手荒れ、手湿疹にはいろいろな種類の塗り薬を同時に処方することがあります。それぞれ使用する回数や部位も異なりますので、適切に使うようにしましょう。使用方法が分からない場合は、お気軽にスタッフにお声がけください。
手荒れ、手湿疹に対する治療を行っても、原因となる刺激が続く限りはなかなか症状が良くならなかったり、良くなってもすぐに繰り返したりしてしまいます。例えば水仕事の際には綿の手袋の上からゴム手袋を着用して行うだけでも非常に有効です。指先を酷使するような職業の場合でも可能であれば手袋などを使用することも対応策の一つです。
また、普段の家事(掃除や洗濯など)も指先にとっては刺激となってしまいますので、綿の手袋を着用することは大切になります。綿の手袋を着用することで刺激を減らす以外にも、手に塗った軟膏が物に触れて落ちにくくなる、手袋の中で密封されることで軟膏の効果が増す、などのメリットもあります。
よって、夜寝る直前にも再度軟膏をしっかりと塗った後に綿の手袋を着用することは、治療効果を高めることにもなりますので、おすすめの工夫となります。
TOP