
ほくろ
ほくろ
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一般的にイメージされるほくろとは医学用語では母斑細胞母斑(ぼはんさいぼうぼはん)あるいは色素性母斑(しきそせいぼはん)といいます。母斑細胞という細胞が増殖して塊を作ることでほくろとしてみられます。先天性(生まれた時から存在する)のものと、後天性(生まれてから成長に伴い出現する)のものに分かれますが、ほくろの大部分は後天性です。一般的には3~4歳頃からみられるようになり、次第に数が増えて20~30歳代がピークとなり、それ以降はほくろの色が薄くなり母斑細胞の塊は脂肪や線維組織に置き換わっていきます。
ほとんどのほくろは医学的には母斑細胞母斑といいますが、母斑細胞母斑にもいろいろな種類があります。ほくろの種類によっても治療方法が異なる場合があるため、適切に評価して診断することが大切です。
母斑の種類をどのように分類するかというと、顕微鏡で皮膚を細かくみた際に母斑細胞が塊を作っている場所(深さ)により境界母斑、複合母斑、真皮内母斑の3種類に分かれます。これらの母斑は成長や加齢に伴い境界母斑→複合母斑→真皮内母斑のように少しずつ変化していくとされています。
母斑細胞が皮膚の浅い層(表皮と真皮の境界部分)で塊を作っているほくろです。ほくろの黒や茶色といった色味のもとはメラニンという色素によりますが、境界母斑の母斑細胞にはメラニンを作る能力があるため、茶色から黒色の色調のほくろとなります。形状は平坦で盛り上がることはあまりありません。大きさは数mmと小型で境界もはっきりしていることが多いです。
母斑細胞母斑の3種類のうち、他2つである境界母斑と真皮内母斑の中間の状態にあるほくろです。母斑細胞が浅い層(表皮と真皮の境界)に加えて、深い層(真皮の中)にも塊を作っているため、境界母斑に比べてやや盛り上がりがあり、色調も濃くなります。子どものほくろに多いタイプです。
母斑細胞が皮膚の深い層(真皮の中)に塊を作っているほくろです。成人以降のほくろに多くみられ、ドームや球状に盛り上がります。母斑細胞が深い層にいくほどメラニンを産生する能力が低下するため、色調も茶色から肌色など薄くなっていく傾向にあります。
他の分類方法として、Ackerman(アッカーマン)というアメリカの学者が後天性の母斑(ほくろ)を見た目や組織学的な特徴から4つに分類したものがあります。
平坦あるいはわずかに盛り上がりのあるほくろで、体幹などによくみられます。母斑細胞は浅い層(表皮と真皮の境界部)で増殖しているため、茶色い平坦なほくろとしてみられます。ほくろの中央の母斑細胞が深い層(真皮の中)でも増えている場合は、ほくろの中央だけが黒色に濃くみえて周辺にいくにつれて茶色に薄くなっていく場合もあります。
ドーム状に盛り上がった形をしたほくろで顔によくみられます。色調は若い頃は青黒色など濃いですが、年齢を重ねるにつれて薄い茶色、肌色と徐々に色が抜けていく場合が多いです。その他にもほくろから毛が生えていること、若い頃はグミのような硬さから年齢を重ねるにつれて徐々に皮膚と同じくらいまで柔らかく触れるようになることもMiescher母斑の特徴です。
初期は平坦ですが徐々に半球状のドームのような形や、根元が細い茎状にくびれて盛り上がった形に変化するほくろで、首、体幹、腕などによくみられます。ほくろの表面にはつぶつぶとした凹凸があり、桑(くわ)の実状やブドウの房状のような表現をされます。触るとぷよぷよと柔らかく触れ、色調は黒色から薄い茶色、肌色などバリエーションがあります。大きさは1cm程度と比較的大きめのものが多いです。
子どもや若い世代の方によくみられるほくろで、全身のどこにでもあらわれます。形は平坦からわずかに盛り上がっていて、ほくろの表面を触るとざらざらとした硬い感触が特徴的です。色調は黒色、茶色、赤色などバリエーションがあります。
ほくろの診断においては、一見するとほくろと色や形が似ているために鑑別が必要な疾患が良性疾患だけでなく皮膚がんなどの悪性疾患も含めて数多くあります。これらを鑑別するために有効な方法にダーモスコピーという特殊な拡大鏡があります。ダーモスコピーを用いて発疹を観察することで、肉眼で見るよりも多くの情報を得ることができますので、通常皮膚科ではまず最初にダーモスコピーで病変をしっかりと観察したうえで、そもそもほくろかどうか、良性病変なのか悪性病変なのか、などを評価しています。皮膚がんが疑われる場合、ほくろ以外の疾患が疑われるも診断がはっきりしない場合などは、状況に応じて皮膚生検(発疹の一部または全部を切除して組織の検査を行うこと)を行う場合があります。
ダーモスコピーによる評価で明らかに良性のほくろであると診断できるものであれば、基本的には経過観察のみで切除の必要はありませんが、洗顔やひげ剃りの際に引っかかったり出血する、目の周りで視界に入って邪魔になる、悪性腫瘍も否定できない、醜形をきたしている、などの場合は保険適用でほくろ除去を行うことが可能です。上記以外の場合でも保険診療、自費診療含めて治療することが可能ですので、診察時にご相談ください。なお、ほくろの部位、大きさによっては当院で対応できない場合もあるため、その際は総合病院などにご紹介させていただきます。
ほくろ除去にはいろいろな方法がありますが、当院では次の3つの方法を使い分けています。
ラジオ波という一般的な電気メスの約10倍にあたる4.0MHzの高周波数帯を採用しているメスを使用します。組織に対する集中性が高いため、過剰な熱のダメージを抑えて組織損傷を最小限にしてほくろの組織を蒸発させて除去する方法です。根が深いほくろの場合は深い部分のほくろの細胞が除去されなければ再発するリスクがありますが、高周波メスにより表面から蒸発させていく方法では、深い部分のほくろの細胞が除去しきれなかったり、深く削り過ぎることで凹んだ傷跡や瘢痕となるリスクがあります。そのため、高周波メスでは根が深いほくろの切除にはあまり向いておらず、浅い小型のほくろの除去に向いています。またほくろ除去と同時に止血もできるため出血が少ないこと、縫合や抜糸も不要であることがメリットです。
くりぬき法とは丸い形にくり抜ける形状のメスを用いてほくろを円形にくり抜き、通常は縫合をせずに軟膏や医療用テープなどを使用しつつ、傷が自然にふさがるのを待つ方法です。このような治療法はオープントリートメントともよばれます。くりぬき法のメリットには縫合することによる線状の傷が残らないこと(ほくろをくり抜くことによるやや陥凹した円形の傷跡は残ります)、高周波メスのような組織への熱ダメージがないこと、深い部分にあるほくろの細胞も含めて除去できるため再発のリスクが少ないことなどが挙げられます。一方で大型のほくろではくりぬき法による傷跡が目立ちやすくなるため、くりぬき法は顔面の比較的小さいほくろに対して有効な選択肢となります。
ほくろを周囲の皮膚を含めてラグビーボールのような形に沿ってメスで切除し、糸で縫合して傷をふさぐ方法です。メリットは縫合して傷がふさがった状態で終了するため、他の治療と比べて傷の治りが早いこと、深い部分にあるほくろの細胞も含めて除去できるため再発のリスクが少ないことなどがあげられます。一方で傷跡を歪みのない線とするため、ほくろの大きさよりも線状の傷跡の長さが長くなることがデメリットとしてあげられます。
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