
ステロイド外用薬
ステロイド外用薬
ステロイドは本来は腎臓の上にある副腎という臓器から作られるホルモン(副腎皮質ホルモン)で、抗炎症作用があります。このステロイドを人工的に合成し、外用薬として使用できるようにしたものがステロイド外用薬となります。初めて開発されたのが1952年と古くから使用されており、アトピー性皮膚炎や湿疹を初めとして多くの皮膚疾患において用いられます。
ステロイド外用薬は効果の強さに応じて5つのランク(1群から5群まで)に分類されます。
1群はstrongest(ストロンゲスト)と呼ばれ、最も効果が強く、一方で5群はweak(ウィーク)と呼ばれ、最も効果がマイルドになっています。
使い分けに関しては、基本的には皮膚疾患の種類、皮膚の炎症の程度・部位、患者様の年齢などを考慮して、適切な強さの外用薬を選択しています。
例えば顔や首、陰部などは皮膚が薄い部分はステロイドの吸収率が高いため、弱いランクを使用し、手のひらや足裏は皮膚が厚くステロイドの吸収率が低いため、強いランクを使用します。
ステロイド外用薬の剤形にも様々なものがあり、軟膏、クリーム、ローション、テープ剤などがあります。
軟膏は白色ワセリンなどの油性基剤*をベースにしているため、べたつきがあり使用感が劣るところもありますが、刺激性が弱く、肌の弱い方やどのタイプの発疹にも使用することができるという点で基本的な剤形になります。
*基剤:ステロイドなどの有効成分を溶かし込むための土台、ベースのようなもの。添付文書などには「添加剤」として表記されています。
クリームは基剤として油性成分に加えて水やグリセリンなどの水分が乳化によってバランスよく混ざっているため、さらっとしていてのびがよく使用感は良いです。一方で、水や汗で簡単に落ちてしまい、軟膏に比べて刺激性が強く、傷やジクジクした発疹に外用した場合に刺激を感じることが多いです。
ローションはクリームに比べて基剤中の水分の量がさらに多く、伸びがよく最もべたつきにくい剤形となります。軟膏やクリームではべたべたしてしまう頭皮などの毛が生えている部位への外用に適しています。また、乾きやすいため、汗をかいたり蒸れやすい部位にも適しています。一方でクリームと同様に傷やジクジクしている部位への外用で刺激を感じることが多いです。そのため、傷やジクジクしている部位には軟膏が適しています。
皮膚科診療においては、同程度の湿疹の患者様に対して同じステロイド外用薬を処方しても、すぐに治る方となかなか治らずに長引く方がいらっしゃいます。同じ症状に同じ薬を使用しているにも関わらず、治りに差が出る原因として多く経験するのは、外用薬の塗る量・塗り方が適切でない場合です。(その他の原因にはステロイドの強さが弱い、そもそもステロイドが効く発疹ではない、などの様々な要因もありえます。)
適切な効果を得るためには「FTU(フィンガーチップユニット)」と呼ばれる単位を使用します。軟膏・クリームの場合は大人の人差し指の先から第1関節に薬をのせた量を1FTUといい、1FTU=約0.5gとなります。1FTUの分量を指に出せば大人の手のひら2枚分くらいの面積に塗ることができます。
*ローションの場合:1円玉大くらいの大きさの量
*FTUの考え方はステロイド外用薬以外の多くの軟膏で塗布量の目安として用いていただいても大丈夫です。ただし、中には塗り方、塗る量が決まっている外用薬もありますので、医師や薬剤師から別に説明を受けた際はそちらに従って使用するようにしましょう。
*FTUは大人の手のひら以上など、比較的広い範囲に塗る場合に参考となる考え方ですので、それ以下の狭い範囲、例えば虫刺されや赤ニキビなどの場合は、指先に軟膏を少量つけて患部がややテカる程度に擦り込まずに塗り広げるようにしましょう。
上記に大人の人差し指の先から第1関節に薬をのせた量が1FTUとなり、約0.5gであると記載していますが、実は日本でよく処方されることの多い5gや10gの規格のチューブは、チューブの口径が小さいため1FTU分の長さを絞り出しても0.5gにはならないとされています(1FTUが0.5gになるのは25gのチューブです)。実際には5gチューブでは0.2g程度、10gチューブでは0.3g程度と、1FTUに必要な量に不足しています。よって、実際に大人の手のひら2枚分くらいの面積に十分な量の軟膏を塗布するためには、2FTU(人差し指の先から第2関節あたりまで)ほどの量を使用しても大丈夫です。
・広範囲に塗る場合は、最初に軟膏を数か所に分けて置くように塗布した後で、全体にやさしく手のひらで広げます。その際に皮膚のしわに沿って水平方向に塗り広げると均一に塗ることができます。しわに対して直交した方向に塗り広げるとムラができやすくなってしまいます。
・外用薬は擦り込まずにやさしく塗り広げましょう。擦り込んでも有効成分が皮膚に多く浸透するわけではなく、逆に強く擦り込むことで摩擦による皮膚への刺激となってしまいます。
・ステロイド軟膏と保湿剤を一緒に重ね塗りする場合は、先に保湿剤を広めに塗り、その上から発疹や症状のあるところだけにステロイド軟膏を塗るようにしましょう。(*先にステロイド軟膏を塗って、後から保湿剤を重ね塗りすると、ステロイド軟膏が発疹以外の部分にも塗り広げられてしまうためです。)
これらのようにステロイド外用薬の添付文書には色々な副作用の記載があるため、本当に使用して大丈夫なのか心配される方もいらっしゃると思います。しかし、これらの副作用は塗り薬を使い始めてから数日や1週間で出るものではなく、外用している体の部位にもよりますが、通常は数週間、数か月間と漫然と塗り続けることで出てくる症状です。
そして、厄介な点として毛細血管拡張や皮膚萎縮、酒さ様皮膚炎などの副作用は一旦出現すると、ステロイド外用薬の使用を中止してもなかなか改善されなかったり、自然に改善したとしても長い時間がかかったり、副作用に対して別の治療を行う必要が出てくるなどの問題があります。
一方で、ステロイド外用薬は湿疹をはじめとした多くの皮膚疾患において、皮膚の炎症や痒みを抑えるという点ではとても有効性や即効性に優れていますので、副作用とのバランスに注意しながら使用すれば非常に良い塗り薬になります。
当院では全ての患者様がステロイド外用薬による副作用がなるべく生じずに、かつ適切に塗り薬を使用できるようにすることを重視し、患者様の長期的な視点も踏まえて診療しております。
よくあるケースとしては、皮膚の炎症が治りきる前に外用をやめてしまっていることがあります。とくに痒みが落ち着くとどうしても塗り忘れてしまったりしまいますが、痒みがなくなっても、患部を顕微鏡レベルで見てみると軽度の炎症が残っていることがしばしばあります。特に多くの方が経験することの多い湿疹では、発疹を触るとガサガサ、ざらざらしていて、赤みがあり、痒みを伴う状態であることが多いですが、この3つの状態(ざらざら、赤み、痒み)が治って、患部がツルツルとして痒みもなく、色も茶色い色素沈着になるまで塗り薬を塗って初めて治ったという状態になります。よって、痒みの症状だけでなく、実際に患部を触ったり色を見たりしながら外用薬を使うかどうか判断することも重要です。
一般的には1日2回、朝と夜に外用することが多いです。夜に塗るタイミングとしては入浴直後は薬が浸透しやすく、患部も全体的に確認しやすいため、入浴後に塗ることをお勧めしています。また、日中は学校や仕事があり軟膏がべたべたするため朝に塗り薬を使うのがためらわれる場合は、外用薬を軟膏からクリームやローションに変更したり、入浴後に加えて就寝前にも外用するなどの工夫も行うことができます。
ステロイドには外用薬だけでなく、内服薬や点滴、注射など色々な剤形があります。ステロイドによる全身や内臓への副作用としては胃潰瘍、糖尿病、易感染性(感染症に罹りやすくなる)、骨粗鬆症、血栓症、満月様顔貌、中心性肥満、動脈硬化、高血圧症など、頻度の差はあるものの多様な副作用のリスクがあります。しかし、これらはステロイドを内服薬や点滴などによって長期間投与することによって起きる可能性がある副作用です。
ステロイド外用薬も経皮吸収といって、薬を塗った部分の皮膚を介して体内に吸収されますが、その吸収量はステロイド内服薬や点滴と比べるとごくわずかであり、通常は皮膚科において処方されるステロイド外用薬によって全身や内臓への副作用が起こるリスクはほとんどないと考えられます。
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