
イソトレチノイン内服
イソトレチノイン内服
目次
イソトレチノインはビタミンA誘導体であるレチノイドを主成分とする飲み薬です。ビタミンAよりもはるかに高い生理活性があり、ニキビの原因となる皮脂の過剰な分泌を抑制したり、角化を正常化させて毛穴の出口が詰まりにくくする作用があります。海外のニキビ治療ガイドラインでは重症なニキビに対しての第一選択治療として強く推奨されていて、中等症や重症なニキビに対しても90%以上の方が改善したと報告されているデータも複数あります。よって、イソトレチノインは難治性や重症のニキビにおいても高い効果があることから、ニキビ治療の切り札とも言われています。今までの治療で症状がなかなか良くならない患者様にはおすすめの選択肢であり、すでにアメリカやヨーロッパなど多くの国では30~40年前から使用されており、中等度から重症のニキビに対しては世界的なスタンダードとなっています。一方で日本ではまだ未承認のため自費治療となります。
また、イソトレチノインは酒さにおいても効果があるとされています。酒さにおいて丘疹膿疱型(きゅうしんのうほうがた)と呼ばれるタイプは、顔の赤みに加えてニキビのようなぽつぽつが口周りや頬、鼻、眉間にあらわれますが、イソトレチノインは特に丘疹膿疱型酒さに効果があるとされています。
イソトレチノインの商品名にはアキュテイン、ロアキュタン、アクネトレント、イソトロインなどいくつか種類がありますが、どれも薬としての作用は同じです。
イソトレチノインには次のような作用があります。
毛穴の中にある皮脂線(皮脂を出す組織)を縮小させる働きがあるため、皮脂の分泌量の減少が期待できます。特に顔や頭皮は皮脂の分泌が多いため、効果を実感しやすい部位です。そして、イソトレチノインによる皮脂腺退縮作用は適切な用量、期間での治療を行うことで長期に続くことがわかっていますので、治療終了後もニキビが再発しない(あるいは再発しても症状が軽度で済む)ことがポイントです。従来の保険診療による治療は中断するとどうしてもニキビが再発してきてしまうため、治療終了後も再発予防の効果が期待できる点はイソトレチノインの大きな特徴であると言えます。
イソトレチノインは皮膚の表層を構成する表皮細胞の生まれ変わり(角化といいます)を正常に整える働きがあります。それにより、異常な角化によっておこる毛穴の詰まりや皮膚のごわつき(皮膚が厚くなる)などの症状の改善が期待できます。
アクネ菌は本来全ての人の皮膚に生息している常在菌です。しかし、赤ニキビでは毛穴の中にたまった皮脂をエサに増殖したアクネ菌に対して、菌を排除しようとする免疫応答が過剰に働いてしまうことで炎症が起こっています。イソトレチノインはこの過剰な免疫応答を正常に戻す作用があるため、アクネ菌による炎症を減らす効果が期待できます。
イソトレチノインはニキビの根本的な原因である毛穴のつまり、過剰な皮脂の両方にアプローチができる薬であると言えます。
ニキビ治療におけるイソトレチノインは次のような方におすすめされます。
通常は2か月ほど保険で適切な治療をしてもニキビが改善されない場合にはイソトレチノインによる治療を検討してもよいと考えられます。ただしニキビの塗り薬を正しく使えていないケースも中にはあるため、まずは適切に使用できているか確認することも大切です。
ニキビのタイプの一つにいわゆるしこりニキビというものがあります。医学的には結節(けっせつ)や硬結(こうけつ)、嚢腫性(のうしゅせい)ざ瘡、あるいは嚢胞性(のうほうせい)ざ瘡など色々な呼び方がありますが、ニキビの炎症が強まると赤くて硬いしこり状となり(結節、硬結)、その後しこりの内部が化膿して膿がたまると嚢腫性ざ瘡(嚢胞性ざ瘡)となります。これらは頬やあご、フェイスラインなどに多くみられ、治りにくいケースが多く、強い炎症が長引くことでニキビ跡(凹みや赤み)として残るリスクが高まります。このようなタイプのニキビではイソトレチノインが有効なケースが多いです。
イソトレチノインには凹みや赤みなどのニキビ跡を大きく改善させる作用はありません。しかし、ニキビ跡になりやすい方やニキビ跡が目立ちやすい方では、保険の治療で治りきらない場合にはニキビが重症でなくともイソトレチノインを少ない用量で内服することも良い選択肢となります。よって、イソトレチノインは重症なニキビの患者様にしか使用しないわけではなく、個々の患者様の症状、治療経過、肌質などから総合的に判断して軽症から中等症のニキビでも使用することがあります。
顔だけでなく胸や背中などに多くの難治性のニキビがみられる状態を集簇性(しゅうぞくせい)ざ瘡とよばれます。しこりニキビやケロイドとよばれる盛り上がった傷跡、色素沈着などが混じることもあります。集簇性ざ瘡はニキビの最重症のタイプで、男性に多くみられます。嚢腫性ざ瘡と同様に集簇性ざ瘡の場合も、保険診療で行える治療ではなかなか症状を改善させることが難しいため、イソトレチノインが有効な選択肢となります。
ニキビの根本的な原因である毛穴詰まりに対しては、ディフェリンゲルやベピオゲルなどの塗り薬が標準的な治療ですが、これらの塗り薬の作用上どうしてもヒリヒリや赤み、乾燥などの刺激症状があらわれます。数週間から1か月ほどで刺激症状も落ち着いてくることが多いですが、一部の患者様では継続することが難しいケースもあるため、そのような場合にはイソトレチノインも選択肢の一つとなります。
また、イソトレチノインはニキビ以外にも酒さ(赤ら顔)、脂腺増殖症(しせんぞうしょくしょう)、脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)、脂性肌、鼻の毛穴の開きや黒ずみといった疾患、症状にも用いることがあります。
イソトレチノインは酒さにおいても効果があるとされています。酒さにおいて丘疹膿疱型(きゅうしんのうほうがた)と呼ばれるタイプは、顔の赤みに加えてニキビのようなぽつぽつが口周りや頬、鼻、眉間にあらわれますが、イソトレチノインは特に丘疹膿疱型酒さに効果があるとされています。早い場合には飲み始めてから1-2か月ほどでぽつぽつは引いてきますが、通常でも4か月前後内服することである程度の効果が得られることが多いです。
また、酒さのタイプの一つである鼻瘤(びりゅう)にもイソトレチノインが有効である場合があります。鼻瘤とは鼻を中心とした酒さのタイプの一つであり、症状としては鼻の毛穴の広がりと皮膚の凹凸が目立つことによるごわつき、毛穴周囲や皮膚全体の赤み、皮脂による皮膚のテカりなどが特徴的です。鼻瘤では皮脂腺の過剰な働きや炎症が原因となっていることがありますので、イソトレチノインによる皮脂腺縮小効果、ターンオーバーの正常化、抗炎症効果が有効に働きます。通常はイソトレチノインの内服を開始してから少しずつ皮膚の質感が改善されていき、一定の効果がみられるまでには個人差はありますが4-6カ月前後は内服することが多いです。
脂腺増殖症は皮脂腺(ひしせん)という皮脂を作る組織が増えることでできる良性のできものです。もともと皮脂腺の多いおでこ、頬、鼻にみられやすく、脂性肌の方でよくみられます。通常は中年以上の男性に多いですが、若い方でもみられる場合があります。治療は手術や炭酸ガスレーザーなどで切除、除去することが多いですが、脂腺増殖症が顔に多くみられる場合には手術やレーザーによる傷跡や再発のリスクがあります。よって、そのようなケースではイソトレチノインの内服が選択肢となります。イソトレチノインには皮脂腺を小さくする作用があるため、脂腺増殖症のぽつぽつ自体も小さくする、あるいは消退させることが期待できます。
脂漏性皮膚炎は皮脂の分泌が多い頭皮、髪の生え際、耳の後ろ、眉間、鼻と鼻周り、ほうれい線などにできやすい皮膚炎で、フケ状の細かいカサカサを伴う赤みが特徴です。これらの部位は皮脂腺が発達していて皮脂の分泌が多いため、脂漏部位とよばれます。頭や顔以外にも脇の下、胸元、膝の裏、陰部などにもよくみられます。脂漏性皮膚炎の原因にはマラセチア菌と呼ばれるカビの一種が関わっていて、マラセチア菌は皮脂を栄養源にして増え、増殖したマラセチア菌の作る物質が皮膚炎の原因となるとされています。通常はステロイド外用薬や抗真菌薬(カビであるマラセチア菌の増殖を抑える塗り薬)を用いて治療を行いますが、イソトレチノインの皮脂腺を小さくして皮脂の分泌を抑える作用は脂漏性皮膚炎の治療にも期待できます。実際に中等度から重症の脂漏性皮膚炎の患者様を対象にした研究でもイソトレチノインの有効性が示されていますので、塗り薬の治療でなかなか症状が良くならない場合や、広範囲に皮膚炎がある場合などではイソトレチノインも治療選択肢の一つとなります。
皮脂の分泌は思春期である10代から増え始めますが、皮脂の分泌量がもともと多い方では20代~30代にかけても皮脂が多い状態が続きます。皮脂が多いことによる影響としてはニキビや毛穴の開き、黒ずみなどがあります。過剰な皮脂により毛穴の開きや黒ずみがみられるようになる理由としては、皮脂は皮脂腺という組織から分泌されますが、皮脂腺は毛穴の中の側面に付属しています。よって皮脂腺から分泌される皮脂の量が多いと、毛穴の中に皮脂が多く溜まりやすくなるため、だんだんと毛穴が広がっていってしまいます。また、皮膚の細胞のターンオーバーが乱れると、本来であれば自然と剥がれるはずの古い皮膚の層(角層)が皮脂と混ざって毛穴の中に詰まるようになります。これを角栓といい、最初は白く透明ですが空気に触れることで酸化され、少しずつ黒色に変色していきます。これが毛穴の黒ずみの原因となります。イソトレチノインは皮脂の分泌量を減らすとともに、ターンオーバーの正常化の作用もあるため、脂性肌や鼻の毛穴の開き、黒ずみとった症状に対しても改善が期待できます。
ニキビに対してイソトレチノインを内服する場合、通常は20mgから開始することが多いです。初期の用量で効果があらわれない場合は、患者様の体重や症状などにあわせて内服する量を増量したり、内服する期間を延長したりすることがあります。逆に、症状が軽度であったり、体重が軽い方の場合には10mgから開始したりすることもあります。
内服のタイミングは空腹時に内服することでイソトレチノインの吸収効率が下がってしまうため、必ず食後に内服することが大切です。また、イソトレチノインは脂溶性のため脂質を含む食事を摂取した後に内服すると吸収効率が高くなることも報告されています。
イソトレチノインで最もよくみられる乾燥の副作用が強い場合には、1日おきや週に2, 3回など内服する頻度を減らして継続していくこともあります。
効果があらわれる時期については、早いケースでは1か月ほどでニキビができる数、頻度が減ったことを実感される方もいます。(皮脂自体は1か月ほどの内服で減ったことを実感される方が多いです。)また、遅くとも2~3か月程度で効果を実感できることが多いです。内服する期間については通常はまず4~6カ月を一つの目安とすることが多いですが、海外のデータではトータルの内服量が120-150mg/kgまで到達すると、イソトレチノインを内服終了後もニキビが再発しにくいと言われています。例えば体重60kgの方でトータル内服量120mg/kgとして計算すると、トータル7200mgの内服が必要となり、イソトレチノイン20mgで治療する場合は360日間、すなわち約1年間の治療ということになります。
よって、まずは4~6カ月を一つの目安として内服し、ニキビが完全にできなくなってからプラス1か月間ほど内服して終了するか、あるいは治療終了後も再発率を下げることを目的とする場合は、トータル120-150mg/kgとなるように追加で内服を継続していくこともひとつの選択肢となります。
また、イソトレチノインによる治療終了後の再発に関しても、適切な期間の治療を行えば、治療開始前と同じ程度までニキビの状態が戻ってしまう方の割合は少なく、ほとんど再発がみられないケースや再発したとしても症状が軽度で塗り薬や抗生物質の飲み薬でうまくコントロールできるケースが多いです。
妊娠中の方がイソトレチノインを内服することで、胎児の奇形、流産、早産、死産などのリスクが高くなることが分かっています。よって、イソトレチノインを服用している期間中とその前後1か月間は必ず避妊が必要となります。もしイソトレチノインを内服中に妊娠した場合は、すぐに服用を中止して医師に相談をしてください。また、男性もイソトレチノイン内服中、内服終了後1か月間は避妊を徹底する必要があります。
イソトレチノインは母乳中に移行するため、イソトレチノインを服用している期間中とその前後1か月間は授乳しないようにしてください。また、献血に関しても妊娠女性への輸血により、胎児にイソトレチノインの影響があらわれる恐れがありますので、服用期間中とその前後1か月間は献血をしないようにしてください。
イソトレチノインの作用により骨の成長障害がおこり、身長の伸びに影響がでる可能性があるとされています。よって海外のガイドラインでは12歳未満へのイソトレチノインの服用は禁止されています。当院でのイソトレチノインの治療は原則18歳以上の患者様を対象として、15-16歳以上の患者様の場合はケースバイケースで内服を検討しています。
イソトレチノインには大豆油が含まれています。またピーナッツも大豆と交差反応する場合があるためピーナッツアレルギーのある方も控えたほうが望ましいです
医薬品の個人輸入は深刻な健康被害をおよぼす危険性があり、厚生労働省から禁止されています。イソトレチノインに関しても医師や薬剤師などの専門家による緊密な指導の下でのみ使用される必要があるとされています。
最も頻度が多くみられる副作用は皮膚や粘膜の乾燥です。また、特に注意が必要な副作用には胎児の催奇形性があります。ここでは副作用についてそれぞれ見ていきます。イソトレチノインには複数の副作用の報告がされていますが、乾燥症状以外の副作用があらわれる頻度はかなり稀です。そのため、医師の診察のもと、定期的な血液検査などで適切に管理を行うことで通常は問題なく治療を続けることが可能です。
イソトレチノインを服用中に高頻度でみられる副作用です。イソトレチノインの皮脂抑制作用、ターンオーバーの調節作用により皮膚や粘膜の乾燥症状があらわれます。特に多い乾燥部位としては唇があげられ、ほぼ100%近い割合でみられますが、唇の乾燥症状が強くあらわれる方はイソトレチノインの効果も実感しやすいとされる報告もあります。それ以外にも顔、体幹、腕、足など、理論上は体の全ての皮膚に乾燥がおこる可能性があり、乾燥が長引くことで口角炎や皮膚炎を引き起こすこともありますので、乾燥が気になる部分にはこまめに保湿剤を使うようにしましょう。また、鼻や目の粘膜が乾燥することで鼻血やドライアイなどの症状があらわれることもあります。
妊娠中の方がイソトレチノインを内服することで、胎児の奇形、流産、早産、死産などのリスクが高くなることが分かっています。よって、イソトレチノインを服用している期間中とその前後1か月間は必ず避妊が必要となります。もしイソトレチノインを内服中に妊娠した場合は、すぐに服用を中止して医師に相談をしてください。また、男性もイソトレチノイン内服中、内服終了後1か月間は避妊を徹底する必要があります。
イソトレチノインを内服中にまれに肝臓や腎臓の機能異常、中性脂肪、コレステロールの上昇などの血液検査データの異常があらわれる場合があるため、定期的に血液検査を行う必要があります。具体的にはイソトレチノインによる治療前、内服1か月後、内服3か月後に血液検査を行い、その後は血液検査データや年齢、既往歴などを考慮したうえで、検査のフォローを行っています。
イソトレチノイン内服中にまれに関節痛や筋肉痛のような体の痛みがあらわれる場合があります。症状が軽度であればイソトレチノインの内服は継続しても問題はありません。激しい運動後などには症状が悪化する場合があります。症状が強い場合は医師に相談をしてください。
頭蓋内圧が上昇するためにまれに頭痛がみられます。特にニキビの治療で用いられるビブラマイシンやミノマイシンといったテトラサイクリン系の抗生剤は薬の相互作用によって頭痛や吐き気があらわれやすくなることがあるため、併用は避けるべきとされています。軽度の頭痛であればイソトレチノイン内服を継続しても問題はありませんが、症状が強い場合や吐き気などがある場合は減量や中止を検討する必要があります。また、アルコールを大量に摂取することも頭痛を悪化させる原因となる場合がありますので注意する必要があります。
イソトレチノイン内服中に数%の割合でまれに抜け毛が増えやすくなることがあります。慢性休止期形式脱毛症とよばれる状態であり、通常はイソトレチノインの内服を中止すると脱毛も改善する一時的な症状であることがほとんどですが、稀に改善が遅かったり、改善しにくい方もおられます。または用量を調整することで脱毛の程度が軽減することもあります。
イソトレチノイン内服によりうつ病や自殺、自殺企図などの重篤な精神障害が発生する可能性があるため、精神疾患がある場合は慎重に投与するべきとされています。一方で、重症ニキビによるうつ症状がイソトレチノイン内服により改善したとする報告や、イソトレチノイン内服による精神疾患や自殺のリスクを高めることはないとする報告もあることから現状は結論がついていない状態です。そのため、当院では精神疾患がある方のイソトレチノイン治療については状況に応じて個別に検討をしています。
ここでは副作用以外にイソトレチノイン内服中に注意が必要なポイントについてみていきます。
イソトレチノインを飲み始めた初期のタイミングで一時的にニキビが悪化したり赤みが増す場合があり、好転反応とよばれます。好転反応はイソトレチノインの作用によって皮膚のターンオーバーが促進されることが原因で、全ての方にみられるわけではなく一部の方で起こりえます。通常は治療を開始して1~2週間でみられ始め、落ち着くまでには1~2か月ほどかかるとされています。
イソトレチノインは光感受性を高める働きがあるため、イソトレチノイン内服中は紫外線により日焼けをしやすくなります。そのため、外出時にはなるべく日焼け止め、帽子、日傘などを使用したり、長時間紫外線に当たらないようにしたりと、十分な紫外線対策を行うことが大切です。
未承認医薬品等:イソトレチノインは医薬品医療機器等法上において国内で承認されていません。
入手経路等:当院医師の判断のもと、個人輸入しています。
国内の承認機器の有無:国内で同程度の効能・効果で承認されている国内承認医薬品薬剤はありません。
諸外国における安全性等に係る情報:米国のFDA(食品医薬品局)など諸外国で承認されていますが、胎児の催奇形性、鬱、精神病などの精神疾患の副作用も報告されています。
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