
じんましん
じんましん
じんましん(蕁麻疹)は皮膚にミミズばれのような赤くくっきりとした盛り上がりと痒みがあらわれて、数時間以内(長くても24時間以内)に痕を残さずに消えることが特徴です。蕁麻疹以外のほとんどの皮膚疾患は通常は発疹が数時間以内に消えることはありませんので、診察時に発疹が消えていても、1日の中で赤くて痒い発疹がいろいろな場所に出たり消えたり移っていくというエピソードがあれば、じんましんの可能性が高いと考えることができます。
じんましんでは痒みを引き起こすヒスタミンという物質が何らかのきっかけにより細胞から放出されることで、皮膚の血管が拡張し、血管の中の水分が外に漏れ出て、痒みの神経が刺激を受けることにより、ミミズばれのような発疹があらわれます。血管の中の水分が外に漏れ出ることで盛り上がった発疹となり、血管が拡張することで赤い見た目の発疹になります。ヒスタミンによるこうした反応は長くは続かないため、通常は数十分から数時間(長くても24時間以内)でじんましんは自然と引いてしまうことが多いです。
じんましんの原因として、一般的には食べ物によるアレルギー症状として想像されることが多いですが、実際は食べ物などによるアレルギー性のじんましんの頻度は、じんましん全体の5%ほどと稀であることがわかっています。
一方で、じんましんの患者様全体のうち70%以上は特定の原因がないにも関わらず、突然発疹があらわれる「特発性(とくはつせい)」のじんましんに分類されます。特発性じんましんの一部では、感染症、疲労、ストレスなどが背景にあったり、悪化の要因となることもありますが、それだけで原因の全てを説明できないと考えられています。
アレルギー性じんましん、特発性じんましん以外に、刺激誘発型じんましんというタイプもあります。これは特定の刺激が加わったときだけにじんましんがあらわれるタイプで、刺激の種類には擦過(擦れる刺激)、圧迫、寒冷刺激、温熱刺激、日光、振動など、いろいろなものがあります。
子どもから30歳台前半までの大人の方で、入浴や運動、精神的な緊張などの汗をかくような刺激が加わったときにみられる特殊なタイプのじんましんもあり、コリン性じんましんと呼ばれます。コリン性じんましんでは通常のじんましんよりも一つ一つの発疹が小さく、また、痒みよりもチクチクやピリピリとした刺激を感じることが多いのが特徴です。
じんましんで一般的にみられる症状としては、ミミズばれのように突然皮膚が赤く盛り上がり、痒くなった後、数時間以内(長くても24時間以内)に痕を残さずに消えることが特徴的です。発疹の大きさは数mmから10cm以上のものまであり、形も円形から地図のようにギザギザしているものなど、大きさ、形ともに多様です。通常は体幹や腕、足にあらわれることが多く、顔にじんましんが広がることはあまりありません。顔を中心に(特にまぶたやくちびる)じんましんが見られる場合は、血管性浮腫(けっかんせいふしゅ)というじんましんの特殊な病型である可能性があります。血管性浮腫や食物アレルギーなどで顔にじんましんが見られる場合には、まれに喉の粘膜が腫れてかすれ声になったり、悪化すると呼吸困難などの症状があらわれるケースもあるため注意が必要です。
また、じんましんが出ていないところを掻いたり、擦ったりすることで赤いミミズばれができる場合は、機械性じんましんといい、刺激誘発型じんましんの中でもっとも頻度が高いとされます。
多くの場合では問診によりある程度じんましんのタイプ、病型を推定することができます。そのうえでアレルギーが原因として疑われる場合には、アレルギー検査を行うことができます。当院では血液検査によって特異的IgE抗体値というものを測定してアレルギー検査を行っています。アレルギー検査についてはこちらもご参照ください。なお、プリックテストなどの患者様自身の皮膚を用いたアレルギー検査は当院では行っていないため、そういった検査が望ましいと考えられる際には、実施医療機関にご紹介をさせていただく場合があります。
また、じんましんの原因として、甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患、慢性の感染性疾患(特にピロリ菌が多く報告されています)、悪性腫瘍などの基礎疾患をもつ方では、じんましんを併発しやすいとされていますので、これらの疾患が疑われる場合には血液検査を追加で行ったり、内科などにご紹介をさせていただくケースもあります。
じんましん治療の基本は大きく2つあります。1つはじんましんが誘発される原因や悪化因子を探し、それらが特定できた場合は可能な限り刺激因子を取り除く、あるいは避けるようにすることです。これは食べ物などによるアレルギー性じんましんや、擦過(擦れる刺激)、圧迫、寒冷刺激、温熱刺激、日光、振動などの刺激による刺激誘発型じんましんにおいて重要な対策です。
2つ目は薬による治療です。じんましんは細胞から放出されるヒスタミンという物質が症状の原因となっています。そのため、ヒスタミンの作用を抑えるための抗ヒスタミン薬という飲み薬がじんましん治療のスタンダードです。抗ヒスタミン薬はじんましんのタイプにより効き具合が異なりますが、全てタイプに使用することができます。
抗ヒスタミン薬の調整のみではじんましんが治らない場合には、他のアレルギー薬やステロイドの飲み薬、注射製剤などを追加しながら治療方法を調整していくことが皮膚科学会によるガイドラインには記載されており、当院でもガイドラインに沿った治療を行っています。ただし、一般的にじんましんへの効果が期待できるのは飲み薬または注射薬であり、塗り薬は多少痒みを軽減できることはあっても治療効果は低いことには注意しましょう。
もっとも頻度の高い特発性じんましんであれば、通常は抗ヒスタミン薬の内服を続けることで1~2 週間以内(長くとも1か月以内)にほとんどの方で症状が改善することが多いです。ただし1割弱の方はその後も症状が続き、慢性じんましんという状態に移行し、数か月以上の長い治療が必要になる場合があります。いずれにしても、薬を飲み始めて症状がおさまっても、途中で内服を終了することで再燃、再発しやすくなるリスクがありますので、処方した日数分は飲み切るようにすることが大切です。
長い治療が必要となる慢性じんましんでは段階的に治療の目標を決めることが大切です。まずは「治療をしていればじんましんがあらわれない状態」を目指し、最終的には「無治療でもじんましんがあらわれない状態」を目指すといった形です。
抗ヒスタミン薬などの治療薬を減らしていく方法も決まったものはありませんが、なるべく再燃、再発しにくいよう当院ではゆっくりと減量していく方法を推奨しています。詳しい減量方法は診察時にご説明させていただきます。
しかしながら、抗ヒスタミン薬やその他の補助的な飲み薬でもじんましんがコントロールできないケースもしばしばあります。そのようなケースでは、ゾレアという注射製剤が有効となる可能性があります。
ゾレアはオマリズマブという有効成分を含む注射製剤で、じんましんが引き起こされる過程に関わるIgE(アイジーイー)という物質をブロックし、ヒスタミンが細胞から放出されないようにする働きがあります。注射の頻度は月1回でよく、ご自身で自宅で注射することができるというメリットもあります。
中には慢性じんましんが年単位で治らずに悩まれている患者様もいます。治るタイミングについては個人差もあるため一概には言えませんが、過去の報告では初診から1年後の時点での治癒率が約10%、5年後では約27%というデータがあります。また同じ報告によると、抗ヒスタミン薬を1種類飲んでいる状態で症状がないか、あってもごくわずかな状態を「軽快」と定義した場合には初診から1年後には約36%、5年後には約66%の方が軽快の状態まで改善したとされています。そのため、まずは症状がなくても抗ヒスタミン薬は内服を続けたほうがよく、また、最低限の飲み薬による治療でじんましんがあらわれない状態を作ることを最初の目標にすることが大切と言えます。時間はかかりますが、じんましんは最終的には治る病気です。当院でもライフスタイルなどに合わせて細かく薬を調節することは可能ですので、根気強く治療をしていきましょう。
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